治療の実際 5、歯が痛い


5、歯が痛い 編 診断と治療順序について

 『右下の歯が痛いんですけど。冷たいものはしみるし、噛んでも痛いし、眠れなくて困っているんです。きっと虫歯になっていると思います。』

 早速、歯を診てみました。外見上、特に異常は見当たりませんでした。歯はしっかりしています。すり減ってもいません。穴もあいていません。歯ぐきも全く腫れていませんし、探っても歯槽膿漏が深く進んでいる場所は見つかりません。拡大鏡で見てみましたが歯にひびは入っていません。レントゲンを撮ってみても、虫歯も歯槽膿漏もありません。

 

 『1本ずつの歯を詳しく調べて見ましょう。まず、順番にそーっと風を当てて見ますので感じるかどうか教えて下さい。

 右下の一番奥の歯はどうですか。あまりしみてませんね。奥から2番目はどうですか。これはだいぶ痛そうですね。奥から3番目はどうですか。これはあまり感じないようですね。』

 

 『今度は順番に綿を噛んでみてもらいます。まず右下の一番奥の歯です。

 はい、噛んでください。だいぶ痛そうですね。次に奥から2番目の歯です。はい、噛んでください。しっかり噛んでください。これは痛くありませんね。はい、奥から3番目の歯です。噛んで下さい。これも痛くありませんね。

 どうやら噛んで痛い歯としみる歯は別の歯ですね。噛んで痛いのは一番奥の歯、しみるのは奥から2番目です。』

 

 『そうですか。噛んで痛い歯としみる歯は同じ歯だと思ってました。』

 

 『それでは試しに反対側の左下の歯も風を当てて調べてみます。あれ、こちらの左の方の歯もずいぶんしみていますね。虫歯も無いしすり減ってもいないのに。』

 

 『左の方まで気が付きませんでした。』

 

 『この状況ですと原因として一番考えられるのは噛みしめ、もしくは歯ぎしりですね。噛みしめや歯ぎしりでも結構歯は痛くなるんですよ。だいたい寝ている間にやっていますからね。本人は自覚がないんですよ。

 歯を削って噛んでも当たらないようにして神経を取れば痛みは治まりますが、原因が解決できていなければ次々と別の歯に症状を出すこともあります。』

 

 『以前にもこんな患者さんが来られました。歯が痛いので神経を取ってかぶせたけれどまだ痛い、噛んでも痛いし、冷たいものにも熱いものにもしみるとおっしゃるのです。

 調べてみると神経を取ってかぶせたのは奥から2番目の歯でこの歯は痛くもなんともない、噛んで痛いのは一番奥の歯、しみるのは奥から3番目の歯とそれぞれ別の歯でした。前歯は、歯ぎしりがなければ減らないような場所がすり減っていました。』

 

 『まず歯に無理な力がかからないように「ナイトガード」を使用してみて、それで効果が無かったら歯の処置をするほうが良いと思いますよ。

 痛みはすぐには治まらないかも知れませんから、当座は強い鎮痛剤を出しますのでそれでしのいでください。

 あなたはまだ若いし、これから歯は長く使わなければいけないんですから、簡単に歯の寿命を縮めるような治療はしない方が良いですよ。

 どうされますか?』

 

 幸いこの方の場合、ナイトガードを使用することで歯を傷つけることなく症状は治まってしまいました。

 

 症状は出ているが原因がはっきりしなかったり、複数の原因が考えられる場合があります。今回のような歯ぎしりが原因の場合でも、痛みを出している歯に、たまたま小さな虫歯があったりすると、虫歯が原因で痛みを出しているように見える場合もあります。私は、診断に迷うような場合には、なるべく体を傷つけない順序で治療を試みて、それで効果がなければ次の段階、それで効果がなければ次の段階と進んでいくようにしています。

 

 もっとも、即断即決で神経をうまくとって痛みがぴたりと治まればその方が名医にみえるかも知れませんが、歯の寿命は縮めることになります。

 

 治療の順序はとても大切です。