治療の実際 2、虫歯の治療


2、虫歯の治療 編 虫歯を取るには技術も経験も時間も必要です


 深い深い虫歯があって、虫歯を取っていったら神経が顔を出してしまうという場合があります。もしまだ強い症状が出ていない段階でしたら、神経を保護する治療を行えば、歯の神経が助けられる可能性があります。

 うまく神経を取ってかぶせものをすれば痛みも出ず治療は終了しますが、神経を取った歯は神経を取らない歯より一般に寿命が短くなりますので、もし神経を取らずにすむ可能性があるのでしたら、神経を助ける治療はやってみる価値があります。

 

 虫歯はあまり多く取り残してもいけないし、一気にとって神経を大きく傷つけてもいけません。神経から離れた明らかに虫歯と分かるところは、キーンと鳴る機械「エアータービン」で削ります。この機械、なにしろ1分間に40万回転で、振動も少なくとてもよく歯が削れるのですが、軟らかくなった虫歯と健康な堅い部分が、削っている手の感触ではとても分かりにくい機械ですので、削りすぎる傾向があります。一度削ってしまった歯は二度と元に戻りませんので、少なめ、少なめに削っていきます。能率だけ考えれば、この機械だけで虫歯を全部とってしまえば一番能率は良いです。

 私は、深いところは、多少振動があり、ガタガタと響く「エンジン」を使います。こちらの方は、回転数は1分間に2万回転でエアータービンの20分の1程度です。能率は悪いのですが、削っていて軟らかい虫歯の部分と堅い健康な部分が手の感触で分かります。

 さらに深い神経近くは、機械を使わずに、手で器具を使ってかきとっていきます。柔らかい虫歯の部分と、堅い健康な部分の違いがさらによく指先に感じられます。神経に近づくにしたがい、慎重に慎重に根気よく根気よく少しずつ取っていきます。

 こうやって、取り過ぎること無く、取り残すこと無く、虫歯を取って行きます。

 もし神経が顔を出した場合は止血するまでよく消毒して(ふつう数分間かかります)、刺激しないように、つつかないようにそーっと、神経を保護する薬を神経の上に置きます。さらにまわりからばい菌や刺激物が入らないように注意深く二重に密閉していきます。

 全ての段階がうまく行ってはじめて良い結果が得られます。省けるところはありません。

 

 神経近くまで達する深い虫歯の治療をもっと慎重にやるのでしたら、これを2回に分けてやります。先ず、麻酔せずに痛くない範囲で虫歯をとって抗菌剤を入れて蓋をします。わざと麻酔なしで行うのは虫歯を取り過ぎて神経まで行かないようにするためですが、恐怖感が強い方は麻酔して行います。2週間くらい経ってばい菌が弱ったところで、今度は麻酔をして虫歯を確実にとって神経を保護する処置を行います。

 もうすでに強い痛みが出ている場合は神経を取らずにすむ可能性は少なくなります。

 

 次々と新しい材料や器具が開発されていますが、適切な技術を用いて初めて良い結果に結びつきます。ただ『最新の薬を使いました、最新の機械を使いました』というだけでは良い結果は得られません。

 一般の方は「最新の特別な治療をやっている人なら基本的な治療もしっかりやるだろう」と考えるかも知れませんが、実際に治療をやっている立場の私は「基本的な治療をしっかりやっている人なら、特別な治療を任せても大丈夫だろう」と考えます。

 

 20年前、30年前からやられているやり方でも、20年後、30年後の結果が見届けてられていて良い成果が出ている治療法があります。特にやり直しのできない治療では、長い期間をかけて見届けられてきた、結果の出ている、より間違いのない方法を、多少手間はかかってでも採用したいと考えています。

 

 『虫歯を取る』というのはあたりまえのことのようですが、実際には技術も経験も時間も必要なことなのです。