治療の実際 6、総入れ歯


6、総入れ歯 編  直接作ってしまいました


 2000年7月のことです。当医院で治療された患者さんから

『四国の父の入れ歯を診てもらえませんか?』という打診がありました。様子をうかがうと、上下ともに総入れ歯で、あまり具合が良くないとのことです。取りあえず使っている入れ歯があれば、上の入れ歯の修正に1時間、下の入れ歯の修正に1時間30分、合計2時間30分あれば何とかなるだろうと思い、スケジュールを調整して午後3時30分から、治療時間を2時間30分確保し、その日の最後の患者さんとして来院を待っていました。

 

 治療日当日、約束の時間通りにお二人で来院されました。

 ご挨拶をして、早速治療に入ろうと思ったのですが、下の入れ歯を途中宿泊したホテルに忘れてきたとおっしゃるのです。せっかく遠くからお越しになって何もできないのでは申し訳ないと思って、先ず上の入れ歯の修正をしました。削ったり足したりしてピンクの土台の外形の修正と内面の修正を行い、落ち着かせることができました。そして、下の入れ歯は他に予備の入れ歯も無いとおっしゃるので、その場で直接作ることにしました。私は日頃総入れ歯は口の中で造り上げていくものと思っていますので、時間さえ確保できていればゼロから始めることに特に抵抗はありませんでした。時間延長もあり得ると思って最後の患者さんにしておいたのが活きました。

 下の入れ歯を作る作業を始めました。

 

 作り方は、先ず下の型をとります。患者さんには待ち合い室で休んでいただいて、その間にその場で模型にしてピンクの入れ歯の土台をだいたい作ります。そしてそのピンクの土台をお口の中にいれ、白いプラスチックを盛り上げて歯の部分を作っていきます。何回か調整をくり返して噛み合わせがある程度定まったら、今度はピンクの土台の部分の細部を修正をします。さらに歯の部分と土台の部分の形をもう一度全体として修正します。あとは歯の形や歯ぐきの形を削り出して不足部分をおぎない磨いて完成です。その間3時間ほどです。上の入れ歯の修正と合わせて4時間ほどでこの日の治療が終了いたしました。

 私は歯科医になる前は入れ歯を作る技工士をやっていましたので、こういう作業は楽しみながらやっています。

 口の中で直接作る入れ歯は精度は最高なのですが、削ったり足したりの「つぎはぎ」なので、仕上がりがあまりきれいではない、よごれやすい、強度的に弱い、などの欠点があります。

 

 とても良くかめるようになったとおっしゃっていたのですが、3週間後、『堅いものを噛んだら上の入れ歯が割れた、下の入れ歯が一部痛い』とのことで四国から再来院されました。

 上の入れ歯の割れた部分の修理を行い、さらに後ろが長くて気になるとのことで後ろを短く削り、下の入れ歯は痛い場所を削る修正を行いました。

 入れ歯が割れるほどの力が入るというのは安定して噛めている証拠なのですが、何を噛んで割ったかは忘れてしまいましたが、

 『そんなものを噛んだら入れ歯が負けますよ』

と言ったのを覚えています。

 『まあほどほどに使ってください』

などとお話し、治療は初診を含め2回、5時間で終了いたしました。

 

 その後は調子よくお使いいただいていました。

『そのうちもう少しいいものを作りたい』

などとおっしゃっていたのですが、結局亡くなるまでこの入れ歯を使われていました。

 

 1990年1月の開業間もないころです、上の総入れ歯を作って欲しいという患者さんが来院されました。事情をうかがうと上の入れ歯が粉々に壊れたので捨てたというのです。かけらでもいいから持ってきていただけると、ゼロから作るよりは時間の節約になるのですがとお話をし、この時も予備の入れ歯は無いとおっしゃるし、当時は患者さんも少なく時間が空いていましたので、半日ほどかけてその場で上の総義歯を作りました。

 

 またこんな患者さんもいらっしゃいます。当医院には1時間かけて通ってこられます。上の歯が4本残っていてそれらの歯を全部つなぐ11本分のかぶせ物が入っていたのですが、歯槽膿漏で土台の歯からぐらぐらで抜歯するしかない状態でした。入れ歯は全く使用したことがない患者さんでした。抜歯すると上の歯が1本もなくなってしまって困るとのことで、この方の場合は、前もって準備をして、歯を抜いたその場で、はずしたかぶせ物を組み込み総入れ歯を作りました。この日は2時間の治療時間でした。